生き馬の目を抜く「DXレース」が既に始まっている
日本企業の既存システムが大きな課題を抱えている。そして、時限爆弾のように爆発までの時を刻んでいる――。それが経済産業省のDXレポートが提示する問題意識である。
具体的には、運用開始から20年を超える基幹系システムが企業全体の6割を占めるようになり、増大する運用負荷に押しつぶされる懸念がある。IT人材が運用業務に縛られたままでは、DXに向けたリソース確保は難しい。ところが、労働力人口の減少によってIT人材は40万人規模の不足が見込まれている。
加えて企業の死活問題となるのが、「SAP ERP」の保守サポート終了だ。SAP ERPを核に、周辺システムの機能追加などを長年重ねてきた企業の基幹系システムは極限まで複雑化・肥大化している。導入当初に携わったエンジニアは既に一線を退いており、仕組みを知る者がいない「ブラックボックス化」が進んでいる企業も少なくない。この状態でSAP ERPのサポートが終了すれば、DXを実現するのはさらに困難になる。そのため、現在は多くの企業が生き残りをかけたERPの更新に着手している。
これら一連の危機的状況は2025年ごろに発生するとして、経済産業省ではそれを「2025年の崖」と表現している。
一方、DXレポートが発表されて約1年、状況はまた少し変わりつつある。危機意識の高い企業が順次取り組みに着手していることで、DXの準備の前倒しが進行。皮肉にも2025年より早く、デジタル競争の敗者となる企業が出始める可能性が出てきているのだ。
実際、日本におけるSAP ERPのマイグレーションのピークは2019年とも2020年ともいわれている。つまり、DXのレースは既にスタートしており、ERPのマイグレーションが完了した企業から順に、加速度的にビジネスを高度化していくことになる。未着手の企業が後から取り組みたいと言っても、既にシステムインテグレーターは手一杯。レガシーシステムとともに、そのまま沈没していくしかなくなる可能性があるのだ。
勝ち組/負け組が明らかになるXデーは、2022年ごろには訪れるだろう。もう猶予はない。危機を乗り越え、DXによって持続的成長を実現するため、今選ぶべきアプローチとはどのようなものなのか。